近年、将来の資産形成に向けた有効な手段として、「NISA(少額投資非課税制度)」に大きな注目が集まっています。
特に「つみたて投資枠」は、多くの生活者が毎月コツコツと資産を育てるために活用しています。
しかし、これから投資を始める人や始めたばかりの人の前に立ちはだかるのが、「元本割れをして大損してしまうのではないか」という強い不安です。
どれほど非課税メリットが大きくても、預貯金と違って投資にはリスクが付きまといます。
この記事では、NISAのつみたて投資枠において元本割れが発生する確率やその背景を、公的データに基づき客観的に紐解きます。
さらに、もし元本割れをしてしまった場合の具体的な対処法や、なるべく損を避けるための必須対策について、ゼロワン編集部がプロの視点から分かりやすく解説します。
NISAのつみたて投資枠における「元本割れ」の基本と仕組み
NISAを利用すれば、投資信託や株式の運用で得られた利益が非課税になるという大きなメリットを享受できます。
しかし、NISAはあくまで「税制上の優遇措置」であり、元本や利益を保証する仕組みではないことを正しく理解しておく必要があります。
ここではまず、そもそも「元本割れ」とはどのような状態を指すのか、その基礎知識を整理します。
元本割れとは投資額を下回ること
元本割れ(がんぽんわれ)とは、保有している投資信託や株式などの金融商品の価値(時価・評価額)が、自分が購入した時の金額(投資した元本)を下回ってしまう状態を指します。
例えば、NISAのつみたて投資枠を使って100万円分の投資信託を購入したとします。
その後、世界的な株価下落などの要因によって、その投資信託の評価額が80万円に減少した場合、差し引き20万円の元本割れが発生したことになります。
この時、手元で発生している20万円のマイナスは「含み損(評価損)」と呼ばれる状態であり、まだ実際の損失として確定したわけではありません。
投資信託を売却せず保有し続ければ、将来的に市場価格が回復した際に、評価額が再び元本を上回る可能性があります。
逆に、不安に駆られてその時点で売却してしまうと、20万円の損失が「確定」してしまうことになります。
また、NISA口座を利用した通常の投資において、損失の上限は「投資した金額(元本)」までです。
レバレッジをかけた取引や借金とは異なり、投資したお金以上の支払いを請求されるような事態は絶対に発生しませんので、その点は過度に恐れる必要はありません。
【期間別データ】NISAつみたて投資枠の元本割れ確率と運用成果
NISAを利用する際、「どのくらいの確率で元本割れしてしまうのか」という数字は非常に気になるポイントです。
結論から言うと、将来の市場動向を完璧に予測することは不可能なため、一概に「○%の確率で損をする」と断言することはできません。
しかし、公的なシミュレーションデータや過去の歴史を分析することで、元本割れの傾向を掴むことは十分に可能です。
保有期間による運用成果の違いについて詳しく見ていきましょう。
保有5年 vs 20年の運用成果の違い
金融庁が公表している「はじめてみよう!NISA早わかりガイドブック」等の資料では、過去のデータを用いた非常に示唆に富むシミュレーション結果が紹介されています。
1989年以降、国内外の株式と債券に半分ずつ、毎月同額を積み立てて投資(分散投資)を行った場合の成果を比較したものです。
・保有期間が5年の場合:
投資成果の振れ幅が大きく、年率リターンがマイナス(元本割れ)になるケースが発生しています。
・保有期間が20年の場合:
長期間にわたり積立・分散投資を継続した結果、運用成果は年率2%~8%の範囲に収束し、シミュレーション上では元本割れとなったケースはありませんでした。
このデータは、「投資期間が短ければ短いほど元本割れのリスクが高く、期間が長くなればなるほど元本割れのリスクが減少する傾向がある」という、資産運用の大原則を示しています。
つまり、NISAのつみたて投資枠において最重要となるのは、長期間にわたり運用を辞めずに継続することに他なりません。
「NISAで損してる人の割合」の考え方
SNSやネットニュースなどで「新NISAを始めた人の○割が損をしている」といった話題を目にすることがあります。
このような情報を目にして、不安が膨らんでいる人も少なくないでしょう。
しかし、「損をしている人の割合」という数字は、調査を行う「タイミング」によって極端に変化する性質を持つ点に注意が必要です。
世界的な株価下落や急激な円高など、一時的な相場変動が起きた直後にアンケートを実施すれば、含み損を抱える「損している人」の割合は一時的に跳ね上がります。
逆に、株価が右肩上がりの時期であれば、大半の人が「利益が出ている」と答えるでしょう。
こうした短期的な世論やデータに一喜一憂し、自身の長期的な運用計画を乱してしまうことこそが、資産形成における最大の罠です。
大事なのは目先の他人の損益ではなく、自分自身の「長期・積立・分散」のスタンスをブレずに貫くことです。
NISAの資産運用で元本割れが発生したときの正しい対処法
もし実際にNISA口座で元本割れが起き、保有している資産の評価額がマイナスになってしまったら、どのように対処すべきでしょうか。
パニックにならず、論理的に次のアクションを選択するための指針を提示します。
対処①:焦らずに保有(長期運用)を継続する
元本割れに直面した際、多くの投資初心者にとって最も賢明な判断となるのが「何もせず、そのまま保有を続ける」ことです。
これを徹底することが、長期投資における勝率を飛躍的に高めます。
相場が急落した際に、怖くなって慌てて売却してしまう行動は「狼狽売り(ろうばいうり)」と呼ばれます。
これは、最も価格が安くなっている(底値に近い)タイミングで損失をみずから確定させる、最も避けたいNG行動の典型例です。
対処②:状況に応じた損切り(一部売却・現金化)の判断基準
原則は「保有継続」ですが、特定の状況下においては「損切り(そんぎり)」として売却を検討する例外もあります。
損切りとは、それ以上の損失拡大を防ぐために、あえて損失を確定させて資金を回収することです。
以下のようなケースに当てはまる場合は、損切りを冷静に検討すべき余地があります。
損切りを検討してもよい特別な状況
1. 急な病気や失業などにより、生活維持のためにどうしても直近で現金が必要になった場合
2. 投資対象が特定の個別株などで、その企業の経営状態が壊滅的に悪化し、回復の見込みが著しく低い場合
3. 当初に「15%以上下落したら売却する」といった、感情を排除したルールを明確に決めていた場合
しかし、NISAのつみたて投資枠で多くの人が保有しているような「全世界株式(オール・カントリー)」や「S&P500」などのインデックスファンドであれば、基本的に損切りをする必要性は極めて低いと言えます。
これらは世界全体の企業に幅広く分散投資されているため、地球全体の経済活動が終わりを迎えない限り、価値が永続的にゼロになることは考えにくいからです。
絶対にやってはいけないNGな対応
元本割れ時に最もやってはいけないのが、「価格が下がっているから」という理由だけで、毎月の積立投資を一時停止してしまうことです。
この行為は、積立投資最大の恩恵をみずからドブに捨てることに等しいと言えます。
相場が下落している時期は、投資信託の「基準価額(値段)」が安くなっている状態です。つまり、同じ毎月の設定金額(例えば3万円)であっても、普段より多くの「口数(数量)」を買い付けることができる最大のバーゲンセール期間なのです。
ここで買い付けをストップしてしまうと、「安い時に多く買い、高い時に少なく買う」というドルコスト平均法のメカニズムが機能しなくなります。
後々に相場が上昇に転じた際、下落期に多くの口数を仕込んでおかなかったために、資産全体の回復スピードが大幅に遅れてしまう原因になります。
NISAのつみたて投資枠で元本割れを防ぐための4つの実践的リスク対策
投資である以上、元本割れの可能性を完全にゼロ(0%)にすることは不可能です。
しかし、適切な投資知識を身につけ、運用のルールを徹底することで、元本割れに直面するリスクを極限までコントロールすることは十分に可能です。
ここでは、ゼロワン編集部が推奨する、元本割れを回避するための4つのアプローチを紹介します。
対策①:明確な「投資目的」と「目標額」を設定する
目的のない投資は、短期的な市場の荒波に流されがちです。
「何のために(老後資金、教育資金など)」「いつまでに」「いくら用意したいのか」を最初に明確に定義しましょう。
ゴールが「20年後の老後資金」と定まっていれば、運用開始から2~3年目に一時的な大暴落が起きたとしても、「あと15年以上もあるのだから、今ここで一喜一憂する必要はない」と心に余裕を持って冷静にスルーできるようになります。
対策②:時間の分散である「積立投資」を徹底する
一括で大きな資金を投資に回す場合、万が一そこが「相場の頂点(高値掴み)」であった場合のリスクが非常に大きくなります。
毎月決まった日に一定額を自動で購入する「積立投資」を徹底しましょう。
これにより、相場が高い時には自動的に購入する数量が抑えられ、相場が安い時には自動的に多くの数量を買い集める「平均購入単価の平準化」が実現します。
購入タイミングを推し量る精神的ストレスからも完全に解放されます。
対策③:異なる資産や地域へ「分散投資」する
一つの企業や一つの国、一つの資産(例えば日本株だけ、米国の特定の1社だけ)に資金を集中させるのは非常に危険です。
特定の投資先が致命的なダメージを受けた際、道連れになる形で資産を失ってしまいます。
つみたて投資枠を利用する際は、「全世界株式」や「先進国株式」、あるいは「株式と債券のバランス型ファンド」など、広範囲に分散されたパッケージ商品を主軸に据えるのが王道です。
世界のどこかの市場が落ち込んでも、他の市場がカバーすることで、資産全体の急激な値崩れを防ぎます。
対策④:長期間(15年以上)の保有を前提とした計画を立てる
資産運用は短期決戦ではなく、長期にわたるマラソンです。
先ほどの金融庁のデータが示していた通り、15年~20年といった長期間の保有を前提にすれば、元本割れを起こして損失で終わる可能性を歴史的にはほぼ極小化できます。
途中で運用成績が悪くなったからといって、1年や2年の短いスパンで安易にファンドを解約・乗り換えを繰り返すのは、複利(利益が利益を呼ぶ仕組み)の恩恵をリセットしてしまうため非推奨です。
NISAの制度変更ポイントと旧つみたてNISAとの決定的な違い
新NISA制度は、旧制度(旧一般NISA・旧つみたてNISA)と比較して、投資家が「元本割れリスクを長期的にコントロールしやすい」ように大幅な拡充がなされています。
制度的なメリットを正しく知ることで、より迷いなく長期保有を続けられるようになります。
主な違いと、それが元本割れ対策にどう有利に働くかをまとめました。
① 非課税保有期間が「無期限」に進化
旧つみたてNISAでは、非課税で保有できる期間が20年間に限定されていました。
新制度では期限が完全撤廃されたため、「20年目のタイミングがたまたま大暴落で、泣く泣く課税口座に移さざるを得ない」といった不運を回避でき、回復するまで何年でも非課税のまま待ち続けられるようになりました。
② 年間投資枠および生涯非課税限度額の大幅拡大
つみたて投資枠は年間120万円(旧制度の3倍)まで投資可能です。
さらに一生涯で1,800万円(つみたて投資枠のみで全額利用可能)という十分な非課税枠が与えられたため、ライフステージの変化に応じた、より柔軟かつスケールの大きな分散・長期運用が可能になりました。
③ 売却枠の「翌年再利用」が可能に
一度購入した商品を売却しても、その商品の「買付残高(簿価)」分の非課税投資枠が、翌年以降に復活して再利用できます。
これにより、やむを得ない理由での一時的な現金化や、一部損切りを伴うリバランスのハードルが格段に下がりました。
この変更点はすべて、「短期的な売買を煽らず、じっくりと腰を据えて長期分散投資に取り組んでほしい」という国からのメッセージでもあります。
新NISAは、元本割れを避けるための必須戦略である「超長期保有」を、制度の側面から強力に後押ししてくれているのです。
資産運用の元本割れに関するよくある質問(FAQ)
ここからは、NISAつみたて投資枠における元本割れに関して、初心者からよく寄せられる代表的な疑問にQ&A形式でお答えします。
まとめ:NISAつみたて投資枠の元本割れリスクを正しくコントロールする
NISAは非常に優れた非課税制度ですが、投資である以上、一時的な元本割れが発生する可能性は誰にでも等しく存在します。
まずはそのリスクを過度に恐れるのではなく、「当たり前に起こり得ること」として冷静に受け止めるメンタリティが大切です。
最後にもう一度、元本割れのリスクを大幅に減らし、安全に資産運用を継続するための要点をおさらいします。
・長期運用(15年以上)を大前提とすることで、過去のデータ上は元本割れリスクを極小化できる
・世界中に広く分散されたファンドを選び、特定の国や企業の暴落リスクを避ける
・ドルコスト平均法(定額積立)を徹底し、価格の下落局面を「多く買えるチャンス」に変える
・元本割れが発生しても焦って狼狽売りをせず、どっしりと保有し続ける
資産運用において最も強力な武器は、膨大な専門知識ではなく、「どのような嵐が起きても、あらかじめ決めたルールを淡々と守り続ける忍耐力」です。
手元の評価額の増減に一喜一憂せず、数十年先の明るい未来に向けて、NISA口座を賢く穏やかに育てていきましょう。


コメント